大脳基底核に発生した胚細胞腫の1例

刈谷豊田総合病院 病理技術科1) 病理診断科2) 愛知県立大学看護学科3)
○野畑真奈美(CT)1)伊藤誠(MD)2)山田義広(CT)1) 中根昌洋(CT)1) 中井美恵子(CT)1)村上真理子(CT)1) 林 直樹(CT)1)越川卓(MD)3)

症例

大脳 10歳代 女性
3年前から徐々に右手の麻痺が進行してきたため当院受診。MRI上左大脳基底核に嚢胞性巨大腫瘍(5×4cm)を指摘され、開頭腫瘍摘出術施行。術前血清AFP 59.9ng/ml, HCG 9.8mIU/mlと高値を示した。

細胞診所見

リンパ球を背景に,N/C比増加し数個の核小体を持ち,結合性低下した細胞質の淡明な大型異型細胞をみとめ,いわゆる二相性構成を示していた(two cell pattern).
核分裂像も散見された.合胞体性多核細胞(STGC)はみられなかった.

組織所見

大型円形の未熟な腫瘍細胞の増殖がみられ,周囲にはリンパ球浸潤を伴うbiphasic patternの腫瘍であった.個々の腫瘍細胞の核は腫大し,明瞭な核小体を有していた.分裂像も豊富であった.免疫組織化学的には腫瘍細胞はplacental alkaline phoshatase陽性,C-KIT 陽性であり,生検組織は主として胚細胞成分で占められていた.血清学的な所見からは混合性胚細胞腫瘍の一部をみているものと思われた.

まとめ / 考察

若年者の頭蓋内胚細胞腫瘍は,松果体領域に発生することが多いが,本例は左基底核領域に発生し,最大径5cmの多房性嚢胞性腫瘍を形成した点が特異である.術前の血清学的なデータから胚細胞性腫瘍が強く示唆されたが,生検や細胞診では上皮腫,毛様細胞性星細胞腫などとの鑑別も必要である.胚細胞性腫瘍では化学療法・放射線療法が優先されるため,少量の細胞や組織で的確な術中診断を行うことが求められよう.

病院別