甲状腺腫瘍の一例

大池里枝、山田知里、田中瑞穂、(CT)
西川恵理、佐藤朋子、佐竹立成(MD)

症例

甲状腺 60歳代 女性
既往歴:15年以上前に右乳癌摘出手術を受けた。
現病歴:前頚部の痛みにて近医を受診、甲状腺炎が疑われ当院に紹介受診した。エコーにて下極外側よりに4.7×4.9×4.1mmの境界明瞭な腫瘤あり、穿刺吸引細胞診が施行された。

細胞診所見

上皮性結合を示す異型細胞が多数の集塊を形成して認められ、背景には明らかなコロイドやアミロイドは認められなかった。異型細胞は類円形ないし多方形、核クロマチンは顆粒状で濃染し核小体の明瞭な細胞も認められ、N/C比は高くなく、核は偏在する傾向を示し、管状、平面的な細胞配列を認めた。
少数の細胞には核内封入体が認められたが核溝は殆ど認められなかった。
ギムザ染色でも細胞質には内分泌顆粒を示唆する所見は認められなかった。
以上より、 分化型甲状腺癌としては非定型的な細胞像であり、 第一に転移性腫瘍を考えた。だたし、 核内細胞質封入体をみることから、 甲状腺乳頭癌や甲状腺低分化癌の可能性は否定できなかった。
細胞診にて転移性腫瘍が疑われたので、 原発巣の推定を行うべくCell blockを作製し免疫染色を施行した。異型細胞はTTF1(+)、 thyroglobulin(-)、 PAX8(-)であった。
これらの結果から肺原発腺癌の甲状腺転移が疑われ、肺生検が施行された。

組織所見

肺生検では、線維性組織を背景に 核の腫大、 クロマチンの増量を示す異型上皮細胞が乳頭状ないし微小乳頭状に増生していた。 異型細胞には核内封入体が散見された。
免疫組織化学的には、 腫瘍細胞はTTF1(+)、 thyroglobulin(-)、 PAX8(-)であり肺原発のadenocarcinomaと考えられた。
これらの結果は甲状腺細胞診と一致しており, 甲状腺腫瘍は肺腺癌の転移と考えられた。
まとめ:
転移性甲状腺腫瘍は甲状腺組織全体が腫脹することがあり、本症例のように臨床的には橋本甲状腺炎を疑われることがある。甲状腺穿刺細胞診標本に甲状腺原発の癌細胞に類似しない細胞像を観察した場合は転移性腫瘍を考える必要がある。
また本症例の場合はセルブロックの作製と免疫染色が原発か転移かの確認に有用であった。

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