診断に苦慮した耳下腺腫瘍

岐阜県立多治見病院、臨床検査科1)病理診断科2) 
山川祐佳1),渡辺新司1),松井明男1),渡辺徳子1),米澤千佳子1),松波敏彦1),吉田弥生2),渡邊和子2)

症例

耳下腺 40歳代 男性
6年前大腸癌にて他院にて経過観察中。
5年前他院FNAにて良性腫瘍を指摘。
今回健診で右耳下腺に腫瘤を指摘され、当院にてFNA施行。

細胞診所見

液状分泌物を含む血性背景と泡沫細胞をみとめ、軽度の核大小不同を示し、結合性が低下、胞体が好酸性顆粒を示す細胞を認め、一部には核内空砲を認める。
ギムザ標本では細胞の周囲に異染性を示す基底膜様物質をみとめ、パパニコロウ染色では針状結晶様物質もみられた。
筋上皮由来の腫瘍や多形腺腫などが示唆されたが、良悪の判定が困難であった。

組織所見

4.5x4.0cmの中心に壊死を伴う充実性腫瘍であった。
正常な耳下腺組織とは、線維性被膜で区別されるが,腫瘍の一部は被膜浸潤をしており、また正常な耳下腺内に転移が認められた。組織学的には、好酸性をしめすオンコサイトに類似した細胞質で、核異型の強い細胞が胞巣を形成し、間質に強い硝子化を認めた。
免疫染色で、腫瘍細胞は筋上皮への分化を示し、筋上皮癌と診断した。

まとめ / 考察

【考察】
本症例の診断のポイントは、筋上皮系の細胞であることに気づけたか、悪性の所見があることに気づけたかの2点と思われる。
本症例では、好酸性の胞体を持つ上皮細胞様集塊を認め、背景には、多形腺腫で認められる粘液腫様物質よりも硝子膜様物質を疑わせる異染性物質を認めた。
このことより筋上皮系の腫瘍であることを疑うべきであった。
また、核の腫大や核内空胞を認めたことより、悪性の可能性も考慮すべきであったと思われる。
文献的にも筋上皮系腫瘍、特に悪性の診断は難しいとされており、今後も留意していく必要がある。

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