右頬部軟部組織に浸潤した多発性骨髄腫の一例

愛知医科大学病院

症例

右頬部穿刺 80歳代 女性
右側顔面部の腫脹、隆起、知覚麻痺のため口腔外科を受診。
精査目的のため穿刺吸引細胞診を行った。
【既往歴】
平成10年膀胱癌(組織型不明)
平成14年乳癌(組織型不明)
(穿刺吸引細胞診施行後、平成20年より多発性骨髄腫で治療中であることが判明。)

細胞診所見

Pap染色ではN/C比が高く、核の大小不同 を伴い、1個の目立つ核小体を有する円形~類円形の異型細胞を孤立散在性に認めた。
Gimsa染色では、異型細胞の細胞質はで、核に隣接して核周明庭が見られた。
1%アルギン酸ナトリウム(SA法)を用いてセルブロックを作成し、免疫染色を施行した結果、CD138(+)、CD20(-)、CD79α(-)であった。
既往歴・臨床情報の再検索を行ったところ多発性骨髄腫で治療中であることがわかり、多発性骨髄腫の右頬部軟部組織浸潤が示唆された。

組織所見

本症例では異型細胞は結合性がなく散在性に出現しており、非上皮性腫瘍が示唆された。
口腔外科領域の腫瘍の頻度は上皮性腫瘍が大半で、非上皮性腫瘍の発生は稀であるため、既往歴や臨床情報を参考に総合的に判断する事が重要である。形質細胞は核が偏在性、核クロマチンは車軸状を呈し、核周明庭を認める。
非腫瘍性の形質細胞の核は単核(時に2核)であることが多いが、腫瘍性の形質細胞では、非腫瘍性の形質細胞と比較してN/C比が高くなり、核は3核~多核、顕著な核小体を認める事がある。
また、flame cellやラッセル小体、細胞質封入体が多数ブドウ状にみられるgrape cellが出現する事がある。
形質細胞が示唆される所見や骨髄腫が示唆される細胞の形態学的所見を把握していれば、採取部位が非典型的な部位もしくは臓器であっても診断できる可能性があると考えられた。
骨髄腫細胞を認識する上で核周明庭や核クロマチン構造を確認できるギムザ染色が有用であり、穿刺吸引細胞診標本作成時にはGimsa染色は必須であることも再確認した。
セルブロック法を併用することにより細胞診検体でも免疫染色が可能になり、正診率が向上すると考えられた。

病院別