胸水に甲状腺癌の浸潤を認めた一例

中島梨花 藤田奈央 植田菜々絵 太田裕子 村上善子 谷田部恭

症例

胸水 60歳代 男性
甲状腺乳頭癌にて甲状腺全摘・頸部リンパ節郭清の手術歴があり、その後多発肺転移およびリンパ節転移に対してレンバチニブ(マルチキナーゼ阻害剤)による治療を受けていた。今回胸水貯留により穿刺細胞診が施行された。

細胞診所見

好中球を背景に、核クロマチン増量した大型異型細胞を孤在性に認めた。顕著な核異型を示す高悪性度の癌腫の浸潤と考えた。既往の甲状腺乳頭癌とは細胞形態が異なり、甲状腺乳頭癌の未分化転化の他、肺癌など他臓器癌も鑑別に挙げられたため、セルブロックを作製し検討した。

組織所見

【免疫染色・遺伝子検査】
異型細胞はPAX8陽性、TTF1一部陽性、遺伝子検査BRAF遺伝子のV600E変異が検出された。
【診断】
細胞形態が異なるものの、免疫染色・遺伝子検査より、甲状腺癌の胸水浸潤として矛盾しないと考えられた。

まとめ / 考察

【結語】
甲状腺癌による悪性胸水は稀な病態である。当院の経験では退行性癌の浸潤もしくは分化した乳頭癌の浸潤であり、原発巣との形態学的乖離はほとんどなかった。本例では、胸水中に未分化癌様の異型を示す甲状腺癌が出現した極めて稀な症例であり、新規薬剤との関連も否定できないと考えられた。

病院別