術中迅速細胞標本が有用であった松果体胚腫の一例

伊藤里美(CT)、山田勢至(MD)

症例

脳 10歳代 男性
起床時の頭痛・嘔気が出現し、複視も加わったため近医を受診。頭部MRIで松果体に3cm大の腫瘍性病変と閉塞性水頭症の所見を認め、内視鏡的腫瘍生検、および第三脳室開窓術が施行された。

細胞診所見

(術中迅速標本):細顆粒状の核クロマチンと、大型の核小体を複数個有する未熟な類円形異型細胞が、非腫瘍性の小型リンパ球とともにtwo cell patternを形成していた。異型細胞には核形不整が目立ち、核分裂像も散見された。圧座標本においては、組織球様の細胞も出現していた。年齢と発生部位からは胚細胞性腫瘍が第一に考えられ、特徴的なtwo cell patternを認めたことから胚腫の診断となった。

組織所見

明瞭な核小体を有する類円形核と淡明な細胞質を持つ大型で未熟な腫瘍細胞が、小型のリンパ球を伴って、既存の松果体実質内で浸潤性増殖していた。多数の組織球が集簇して肉芽腫性病変を形成しており、多核の異物巨細胞も散見された。免疫組織化学では、PLAP、c-kitに陽性で、胚腫の診断となった。他の胚細胞性腫瘍成分はみられなかった。

まとめ / 考察

松果体に発生する腫瘍には、胚細胞性腫瘍のほかに、松果体実質細胞由来の腫瘍や神経膠腫などがあり、それぞれ治療方針が大きく異なるため、術中迅速診断の重要性は高い。しかしながら、本症例の凍結標本は、組織の挫滅による変性アーチファクトのため評価がやや困難であった。一方、術中細胞標本においては、腫瘍の形態がよく保たれていた。脳腫瘍の組織は一般的に柔らかく、凍結標本ではアーチファクトが加わるためしばしば診断に難渋する。したがって、術中迅速細胞診の併用は非常に有用であると考えられる。

病院別